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プロスペクト理論
01概要カード
人は絶対額ではなく参照点からの変化で損得を判断し、損失を利益より大きく感じる、という意思決定の理論。
同じ1万円でも、もらうときの喜びより、失うときの痛みのほうが大きい。そんな日常の感覚を、意思決定の理論として定式化したのがプロスペクト理論である。従来の経済学は、人は確率と金額から合理的に選ぶと想定していたが、実際の実験では、同じ問題でも言い方を変えるだけで人々の選択が逆転してしまった。人は絶対的な損得ではなく、基準からの「変化」で判断している――この発想は、行動経済学の出発点の一つになった。
このページのポイント
- 判断の基準は絶対額ではなく、現在の状態(参照点)からの変化
- 損失回避:同じ額でも、失う痛みは得る喜びより大きい(およそ2倍前後が目安)
- 確率の感じ方も一様でない:小さい確率は過大に、大きい確率は過小に感じやすい
タグ: 損失回避 / 参照点 / フレーミング効果 / 行動経済学
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03データ編
期待効用理論への代替として
従来の経済学の中心にあった期待効用理論は、人は選択肢ごとの最終的な資産の大きさと確率を計算し、最も望ましいものを合理的に選ぶと想定していた。しかし実際の実験では、論理的には同じ内容の問題でも、表現の仕方を変えるだけで人々の選好が逆転してしまうことが繰り返し観察された。
1979年、心理学者ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーは、学術誌『エコノメトリカ』に論文を発表し、こうした実際の選択パターンを説明する代替理論としてプロスペクト理論を提示した。
参照点と損失回避
プロスペクト理論では、人は損得を絶対額ではなく、現在の状態などを基準とする「参照点」からの変化として評価する。100万円を持っている人の1万円の増減と、1000万円を持っている人の1万円の増減では、感じ方が違う。
さらに、価値の感じ方を表す価値関数は非対称である。利益の側では、額が大きくなるほど追加の喜びは次第に小さくなる(感応度逓減)。損失の側では、それより急な傾きで痛みが増えていく。同じ額でも、得る喜びより失う痛みのほうが大きいという性質は「損失回避」と呼ばれる。その重みは、実験条件によっておよそ2倍前後と見積もられることが多いが、固定された定数ではなく目安である。
確率の重みづけとフレーミング
確率は確率のまま受け取られるわけでもない。人は小さな確率を実際より大きく感じ、大きな確率を実際より小さく感じる傾向(確率の重みづけ)がある。宝くじへの期待と、わずかな事故への過剰な不安は、この重みづけと関係づけて説明される。
また、同じ選択肢でも枠組み(フレーム)の違いで選好が変わる「フレーミング効果」も理論の重要な要素である。
| 問題の提示のされ方 | 選ばれやすい選択 |
|---|---|
| 利得の形(「何人が助かるか」で提示) | 確実に救える選択肢(リスク回避的) |
| 損失の形(「何人が死ぬか」で提示) | 賭けに出る選択肢(リスク追求的) |
その後の展開
1992年には、複数の結果を持つ選択肢も扱えるよう拡張した「累積プロスペクト理論」が発表された。プロスペクト理論は行動経済学の基礎理論の一つとなり、2002年にカーネマンが心理学者としてノーベル経済学賞を受賞した理由の一つにもなった。消費者の行動分析や、行動をそっと後押しする「ナッジ」のような政策設計にも応用されている。
04AI分析
意見が分かれる分岐点
分かれ目は、人が損得を何を基準に感じているかである。最終的な資産の絶対額を基準にすれば期待効用理論の予測に近づくが、現在の状態(参照点)からの変化を基準にすれば、損失回避やフレーミング効果といった実際の選択パターンが自然に説明できる。
前提の違い
- 人は最終的な富の大きさではなく、現在地からの増減に反応すると見るか
- 確率の感じ方は客観的な数値そのものではなく、心理的に重みづけされると見るか
現代への接続
- 「通常価格から○円引き」という、参照点をわざわざ設定する価格表示
- ポイントの有効期限や期間限定セールのように、損失回避を刺激する設計
- 含み損のある株を売れずに抱え続ける、投資における「処分効果」
- 治療の成功率と死亡率のどちらで説明するかなど、伝え方が選択を左右する医療の場面
※ AI分析は事実の整理と解釈の提示であり、特定の立場への断定ではありません。
05出典・参考文献
- Kahneman, D. & Tversky, A. (1979). “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk.” Econometrica, 47(2), 263–291.
- Tversky, A. & Kahneman, D. (1981). “The Framing of Decisions and the Psychology of Choice.” Science, 211, 453–458.
- Tversky, A. & Kahneman, D. (1992). “Advances in Prospect Theory: Cumulative Representation of Uncertainty.” Journal of Risk and Uncertainty, 5, 297–323.
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』(2011年、早川書房)
書籍リンクは収益ゾーンとしてこの出典セクションに置く方針(試作では実際のリンクは入れていません)。