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トロッコ問題
01概要カード
暴走するトロッコから5人を救うために、進路を変えて1人を犠牲にすることは許されるのかを問う問題。
暴走したトロッコが、線路の先にいる5人の作業員に向かって進んでいる。あなたはレバーの前に立っていて、引けば進路が切り替わり、5人は助かる。ただし、切り替わった先の線路には1人の作業員がいる。レバーを引くべきか。単純な数の比較では答が出そうでいて、設定を少し変えるだけで多くの人の直感が反転する。善し悪しを「結果の総量」だけで測れるのか、それとも結果がよくてもしてはいけないことがあるのかを問う、現代倫理学で最も有名な思考実験である。
このページのポイント
- 問いの核心:5人を救うためのレバー操作は、1人を突き落とす行為と同じか
- 直感の反転:結果が同じでも、行為の形が変わると判断が大きく変わる
- 現代への広がり:実験哲学の調査や自動運転の倫理でも使われ続けている
タグ: 功利主義 / 二重結果原理 / 実験哲学 / フット
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02対話編:ヒロシとミカ
(帰り道の駅のホーム。ポイント故障で電車が遅れている)










03データ編
定式化
原型は哲学者フィリッパ・フットが1967年の論文で提示した事例である。暴走する路面電車(トロッコ)の運転手は、進路を変えれば目の前の5人の代わりに別線路の1人を死なせてしまう、という形だった。1985年、ジュディス・ジャーヴィス・トムソンがこの事例を取り上げて「トロッコ問題(The Trolley Problem)」と名づけ、傍観者がレバーを引く形や歩道橋型など、多数の変形とともに本格的な議論の対象にした。
バリエーションと直感の違い
設定の中身を少し変えるだけで、多くの人の判断は大きく揺れる。実験哲学や心理学の調査では、レバー型ではおおむね9割前後が進路変更を支持するのに対し、歩道橋型で突き落とすことを支持する人は1割前後に下がると報告されている。結果として生じる犠牲の数は同じなのに、である。
| 型 | 求められる行為 | 犠牲で助かる人数 | 多くの人の直感 |
|---|---|---|---|
| レバー型 | レバーを引いて進路を切り替える | 1人の犠牲で5人 | 切り替えてよい、が多数 |
| 歩道橋型 | 隣の人を突き落としてトロッコを止める | 1人の犠牲で5人 | してはいけない、が多数 |
| 臓器移植型 | 健康な1人の臓器を5人に移植する | 1人の犠牲で5人 | してはいけない、が大多数 |
議論のポイント
この差を説明する候補としてよく挙げられるのが「二重結果原理」である。悪い結果を意図して引き起こすことと、よい行為の副作用として悪い結果を予見しつつ許容することとは、道徳的に違う、という考え方である。レバー型の死は副作用として予見されたものだが、歩道橋型ではその人の身体がトロッコを止める「手段」として意図的に使われている、と整理される。
これに対して、区別は直感の言い換えにすぎないという批判や、感情的な拒否感が判断を歪めているという心理学的説明もあり、決着はついていない。トムソン自身も後年の著作で立場を修正しており、議論は現在も続いている。
現代への接続
トロッコ問題は哲学の教室を出て、実験哲学・心理学の調査題材として世界中で使われてきた。2018年には、自動運転車が避けられない事故でどう判断すべきかをめぐる大規模オンライン調査「モラル・マシン」の結果が『ネイチャー』誌に報告され、文化圏によって判断の傾向が異なることも示された。
もっとも、現実の自動運転の設計がトロッコ問題そのものだというわけではない。確率的なリスク配分の問題を、確定的な二択の思考実験にそのまま置き換えることへの批判もある。思考実験は現実の設計図ではなく、私たちの道徳的直感の構造を点検するための道具として位置づけるのが穏当である。
04AI分析
意見が分かれる分岐点
分かれ目は、「よい結果の総量」だけで行為の善し悪しが決まるのか、それとも結果がよくても踏み越えてはいけない行為の形があるのか、という点にある。レバー型と歩道橋型で直感が分かれる事実そのものが、この対立を映している。
前提の違い
- 道徳的評価の対象を「結果」中心に見るか、「行為の仕方」も独立に評価するか
- 悪い結果について、意図したものと予見して許容したものを区別できるか
- 思考実験への直感を、理論を吟味する材料として信頼してよいか
現代への接続
- 自動運転車の衝突回避判断と、その判断基準を誰が決めるのかという問題
- 医療資源の配分(トリアージ)のように、現実に数の比較が迫られる場面
- 実験哲学による直感の国際比較と、文化差の扱い
- AIの判断に道徳的原則を組み込む際の、原則同士の衝突
※ AI分析は事実の整理と解釈の提示であり、特定の立場への断定ではありません。
05出典・参考文献
- フィリッパ・フット “The Problem of Abortion and the Doctrine of the Double Effect”(1967年)
- ジュディス・ジャーヴィス・トムソン “The Trolley Problem”, Yale Law Journal(1985年)
- Stanford Encyclopedia of Philosophy, “Doctrine of Double Effect”
- エドmond・アワド他 “The Moral Machine experiment”, Nature(2018年)
書籍リンクは収益ゾーンとしてこの出典セクションに置く方針(試作では実際のリンクは入れていません)。